子宮頸がんは定期的に検診を受ければ予防できる。さらに近い将来ワクチンの承認が実現できれば、子宮頸がんの予防は新しい時代を迎えることとなる。そこで、子宮頸がんについての認知を高め、企業や自治体の福祉の充実に役立てていただくことを目的に、健保組合担当者、企業の人事・厚生・労務担当者、自治体の子宮がん検診担当者など対象に、2008年12月15日子宮頸がんセミナーを開催。第一線で活躍する専門家たちから最新の情報をお伝えした後、活発な質疑応答が交わされた。 |
今野 良(自治医科大学附属さいたま医療センター産婦人科教授)
世界中では毎年50万人の女性が子宮頸がんにかかり、そのうち27万人が死亡。日本では毎年8千人が罹患し2,500人が亡くなっています。若年層特に20歳代における子宮頸がんの増加が著しく、30歳代ではがんで亡くなる60%の女性は子宮頸がんと乳がんです。 子宮頸がんの99.7%がHPVが原因だといわれ、セックスの経験のある女性や男性であればHPV感染のリスクを持っています。ただし感染しても全く何の症状もなく、ほとんどの場合は免疫力によって体から自然に消えます。 持続感染を起こした場合に子宮頸がんに移行するケースがありますが、HPVに感染して5年から10年すると前がん病変が起きてくるので、この間に検診を受けていれば予防できるのです。しかし検診受診率は日本は23%で、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中でも最下部となっています。 |
鈴木 光明(自治医科大学産科婦人科講座主任教授、日本産婦人科医会常務理事 がん部会)
検診の受診率の向上に向けては、対象者に直接案内を送付する、受診機会の拡大、保健師による積極的啓発活動などが考えられます。自治体の子宮頸がんの予算は実にバラバラで、受診対象者の20%以上の予算を設定していた自治体は8.9%にすぎません。がん検診の予算を一般財源から特定財源化し、検診受診率50%を達成した自治体を表彰したり、補助金を支給するといった方策が必要です。 検診方法については、細胞をとって顕微鏡で判定する従来の細胞診検査に加え、DNAレベルでHPVの13種類の型を発見できるHPV検査法(ハイブリッドキャプチャー法)ができてきました。それをどうやって日本の子宮頸がん検診の中に組み込んでいくかが課題です。 |
岩成 治(日本産婦人科医会がん対策委員会副委員長・島根県立中央病院母性小児診療部長)
子宮頸がんは年々増加・若年化しているのに、検診による発見数はどんどん低下しています。その原因は検診受診率が極端に低いうえに高齢化・固定化しているためです。 (1)厚労省指針が検診対象が20歳以上・受診間隔が2年に変更になり、どこの行政も検診改革に取り組んでいること (2)がん対策基本法が制定され検診受診が努力義務化されたこと (3)HPV検査が安価で容易になったこと 以上のことから、今が検診改革のチャンスと考えられます。 細胞診・HPV検査併用検診の効用(感度・特異度・陰性的中度が高い)を大規模他施設共同研究により実感し、その応用編として全国で初めて島根県の行政検診に細胞診・HPV検査併用検診を取り入れました(島根県モデル事業)。その結果罹患率の高い若年者の受診率が1.5倍増加し、その結果前がん病変・初期がんが多く発見され、罹患率の低い高齢者の受診間隔を3年に延ばすことができ、行政の経済効果(30%減少)がありました。 当院の検診勧奨は看護職が問診し、効果を挙げています。「最近子宮頸がんの原因がHPVというウィルスであることがわかっています」「自己負担が少しかかりますが、受診間隔が3年に1回になりますので割安です」と言うと、95%の人が併用検診を受診します。「割安」「細胞診の残り材料で検査できる」「みなさん受けていますよ」の3つがポイントのようです。 |
小田 瑞恵(こころとからだの元氣プラザ 女性のための生涯医療センターViVi所長、東京慈恵会医科大学産婦人科講師)
女性の健康のために、乳がん・子宮がんの早期発見が重要なのは言うまでもありません。しかし、女性の人生における「働く時代」が占める割合が高くなった昨今、充実した職業生活や家庭生活を送るためには、月経トラブルによる労働損失の予防や妊孕性の保護への対策も求められています。 具体的には、従来の子宮がん検査項目(問診、内診、細胞診)に経膣超音波検査、HPV検査を追加すると良いと考えています。超音波の追加により、子宮内膜症、子宮筋腫、卵巣のう腫などの女性特有の疾患や月経不順、無月経、排卵障害などの内分泌疾患を早期に発見することが可能となります。 女性のライフサイクルを考慮に入れた上で、どういう年代の方に何を発見しようかというターゲット別プログラムを確立し、費用対効果も考慮して検診項目や検診間隔を調整することがとても大事だと思います。 |