活動報告

スペシャルセミナー「ワクチンについてよく知ろう」
日時:2010年12月16日(木)15:00~17:30
会場:東京ステーションコンファレンス602会議室

子宮頸がんの予防のためのHPVワクチンが、インフルエンザb型菌(Hib)ワクチンおよび肺炎球菌ワクチンとともに、今年度の補正予算として成立した。これは子宮頸がん予防および子どもの重篤な感染症を防ぐという観点から大きな前進といえる。また、この3種以外にも長年にわたって定期接種化すべきとの声が強い水痘、ムンプス、B型肝炎のワクチン、あるいは、予防接種の内容を変更すべきとされる百日咳、ポリオなどにも、重要な解決すべき課題がある。

そこで、HPVワクチンに加えて他の「ワクチンで予防すべき病気」についても正しい知識の普及を図ることを目的に、ワクチンの専門家による、ワクチンと病気に関するスペシャルセミナーを開催した。メディア、自治体、議員、医療関係者、啓発団体など約100名が出席し、質疑応答では、「予防接種のスケジュールは?同時接種は可能か?」「自然感染よりもワクチンの方が抗体が多く作られ効果的、ということを伝えていきたい。任意接種だと、打たなくてもいいと認識されてしまう。自治体のホームページでも任意接種のワクチンについては触れていない。どう周知させていけばいいか?」「個人で接種する場合、各ワクチンの費用は?」「ワクチンの安定供給は可能か?」「30歳以上で10%がHPVに持続感染しているが、その人にワクチンは効果があるのか?」「HPVワクチンの対象の選定は、小6~中3、中1~高1、どちらがいいのか?」など多くの質問が出された。閉会後も講演者を囲む大勢の輪ができ、懇談が続いた。

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ワクチン総論と乳幼児小児期流行感染症の実態

神谷 齊(国立病院機構三重病院名誉院長三重県予防接種センター長、子宮頸がん征圧をめざす専門家会議実行委員)


元気に生まれてきた赤ちゃんも保育園に行く頃になると、いろいろ病気にかかるようになる。これはお母さんからもらって来た、いろいろな病気に対する抵抗力が、この頃にはなくなって、自分で作らなくてはいけなくなるから。病気にかかって作らなければいけないものもあるが、予防接種のある病気については、ワクチンを接種して抵抗力を上手に付けてあげることが大切。

自然感染の場合、一部の細菌に対してはかかっても免疫がつかない、つきにくいことがある。たとえばHib、HPVは作られる抗体が少ない。ウイルスや細菌の増殖力を弱く、または、全く増殖ができないようにした(不活化)ものを注入することで体内に抗体(抵抗力)が作られると、感染症にかかりにくくなる。ワクチンには、ウイルスや細菌の増殖力を弱めた「生ワクチン」と、全く増殖ができないようにした「不活化ワクチン」の2種類がある。不活化ワクチンは複数回の接種が必要とされる物が多いが、一定の期間内に追加接種をおこなわないとその後に接種しても意味がなくなるので、適切に接種する必要がある。

予防接種には「定期接種」と「任意接種」がある。定期接種は国が推奨するワクチン。予防接種法が適用されるので、事故が起こると国が責任を取らねばならない。海外に比べ、日本は8種類のみと少ない。任意接種は予防接種法の適用外のワクチンで、自分で責任を取るもの。どんなに科学が進歩し安全性を高める努力をしても、事故が起こることはまれにある。予防する病気の重さに違いがあるわけではないのに、任意接種のワクチンは"接種しなくても良いワクチン"と誤解されている。どちらも重要なワクチン。任意接種のワクチンも含めてワクチンで防げる病気に対しては、ワクチンを接種して予防することが大切だ。

Hib(インフルエンザ桿菌b型)、肺炎球菌、ムンプス(おたふくかぜ)ワクチン

野々山恵章(防衛医科大学校小児科学講座教授、子宮頸がん征圧をめざす専門家会議委員)


Hib(インフルエンザ桿菌b型)、肺炎球菌ワクチン

細菌性髄膜炎は乳幼児の重症感染症であり、診断が難しく進行も急激で、適切な治療が行われても死亡率が高く後遺症を残すことも多い。原因菌としてはHib(インフルエンザ桿菌b型), 肺炎球菌が現在の日本では約90%を占める。アメリカでは、Hibワクチン定期接種が20年前に導入されてHibによる髄膜炎はほぼ消失し、蛋白結合型7価肺炎球菌ワクチン定期接種が10年前に導入されて7価の肺炎球菌による髄膜炎はほぼ消失した。さらに、2010年にはより多くの肺炎球菌に対応するため13価の肺炎球菌ワクチンを定期接種とする推奨案がACIP(アメリカ予防接種諮問委員会)で決定されている。一方、日本では、ようやくHibワクチンと7価肺炎球菌ワクチンが導入されたが、任意接種であり、いずれも接種率は未だ低く、Hibと肺炎球菌による髄膜炎などの重症感染症の発症が続いている。

ムンプス(おたふくかぜ)ワクチン

流行性耳下腺炎(ムンプス、おたふくかぜ)は、髄膜炎、難聴、不妊などの重篤な合併症がある。アメリカでは麻疹、風疹との混合ワクチン(MMRワクチン)の2回定期接種で征圧を進めている。日本では任意接種であり、1回接種での接種率は30%程度に過ぎず、本年度は推定13万人が罹患する流行が起きており、合併症で苦しむ子ども達が多く発生している。ムンプスには治療法がなく、冷やしてただ熱が下がるのを待つだけである。

小児は免疫が未発達であり感染防御能が低い。予防接種により小児に十分な感染防御能を付けて自然感染をなくし、子ども達を守ることが必要だ。

 

DPT(ジフテリア・百日咳・破傷風)、IPV(不活化ポリオ)、水痘ワクチン

岡田 賢司(国立病院機構福岡病院小児科医長、子宮頸がん征圧をめざす専門家会議委員)


DPT(ジフテリア・百日咳・破傷風)ワクチン

わが国で世界に先駆け開発され、副反応が少ないジフテリア・百日咳・破傷風ワクチン(DPT)は1981年の接種開始からもうすぐ30年となる。重篤な副反応はなく、その安全性は世界から高く評価されている。接種率が高くなるにつれて、乳幼児の百日咳は大幅に少なくなり、その有効性も認められてきた。一方で、10歳台以降の思春期・成人の百日咳が、欧米だけでなくわが国でも増加し、小さな赤ちゃんへの感染源となっていることが問題視されている。

IPV(不活化ポリオ)ワクチン

日本では、1950年代小児まひ(ポリオ)の患者さんが大変多く、今でもマヒが残り後遺症に苦しんでいる方々が多い。1961年当時のソ連から経口ポリオワクチン(oral polio vaccine=OPV) が緊急輸入され全国で一斉に投与された結果、1962年以降ポリオの患者さんは激減し、1981年以降新たな小児まひの患者さんはいなくなった。優れたワクチンであるOPVにも生ワクチンゆえに避けられない副反応がある。病原性が弱められているワクチン株だが、体内で増えるときに、きわめてまれに麻痺がおこる。このため、ポリオの患者さんがいなくなった欧米では、体内では増えない不活化ポリオワクチン(IPV)に切り替えられている。わが国でも切り替えの準備が始まっている。

水痘ワクチン

水痘(水ぼうそう)ワクチンは、わが国で、抵抗力(免疫)の低下した子どもたちのために作られた安全性の高いワクチン。健康な子どもたちにも接種でき、優れたワクチンだが、任意接種のため、あまり接種されていない。特に保育施設等の乳幼児の集団生活施設では、毎年のように集団発生が繰り返されている。定期接種に組み入れ、接種率の向上が求められる。

 

HPV(ヒトパピローマウイルス)、HB(B型肝炎)ワクチン

今野 良(自治医科大学さいたま医療センター産婦人科教授、子宮頸がん征圧をめざす専門家会議実行委員長)


HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン

HPVワクチンは、2006年に米国で承認、日本でも2009年10月の承認、12月の使用開始となった。現在、世界120カ国以上で使用され、25カ国以上で公費での接種事業(ユニバーサルワクチン化)が行われている。すでに、海外では1億人以上、日本でも20万人程度で接種が行われた。このワクチンを有効に利用することによって子宮頸がんの征圧が視野に入る時代を迎えた。WHOは、国のワクチン接種プログラムにルーチンのHPVワクチン接種を組み込むことを推奨している。

HPVワクチンの基本は、HPVを構成する遺伝子の中で、カプシドを作り出すL1DNAをイースト菌またはバキュロウイルス発現システムに誘導して、遺伝子工学的に増殖させ、DNAを含まないHPVの殻だけのL1VLP(virus-like particle)を作る。感染力のないL1 VLP筋注によって、IgGを産生させ、新しい液性免疫を引き起こす。IgGは子宮頸部粘膜に滲出し、実際のHPV感染を防御する。レプリカを抗原としているため、感染性はまったくなく、病原性への復帰もない。

検診プログラムのある国におけるHPVワクチン投与の費用対効果は、思春期女児に、平等で高い接種率を達成することで最適になる。ワクチン投与戦略の費用対効果を最高にするためには、HPV感染前の女児に広くワクチンを投与し、成人女性において平等で高い検診受診率を確保することが一番の優先事項である。

HB(B型肝炎ウイルス)ワクチン

HBワクチン使用の目的は、急性肝炎を減らすことと持続感染(キャリア)を減らすことにある。日本においては後者の目的のために新生児期の母子感染防止対策が1986年に開始されており、この効果は大きく、母子感染の95%以上が防止されるようになった。

持続感染を減らすことの意味は、キャリアの約10~15%が移行する慢性肝疾患(慢性肝炎・肝硬変・肝がん)の防止対策、及び、周囲への感染源対策として、極めて重要である。キャリア化の多くは5歳未満での感染によって生ずることから、世界中の80%以上の国々でこれ以下の年齢でのユニバーサルワクチンが導入されている。先進国でユニバーサルワクチネーションが導入されていないのは、日本のほかは、もともとB型肝炎ウイ ルスへの感染者の割合が低い英国、北欧3ヵ国、オランダのみである。 急性肝炎を減らすことの意味は、成人期のHBV感染では不顕性感染が70~80%を占め、急性肝炎を発症する者は、全体の20~30%に過ぎないが、発症すれば長期入院が必要となり得るほか、時に劇症化して致死的となる。また、急性肝炎の一部は慢性肝炎に移行するが、今後日本の成人における急性肝炎からの慢性化の増加が懸念される。成人の性的接触を感染経路とした感染拡大が懸念されるが、性行為感染(STI)としてのHBV感染には全く対策がとられていない。従来の母子感染の遮断のみでは制御できない成人期のHBV感染を視野に入れたHBワクチンのユニバーサルワクチン化による感染防御対策の確立が求められている。

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