①HPV検査導入の意味
<参考資料>「子宮頸がん検診のあり方-HPV併用検診の研究段階から実施への移行」
子宮頸がん検診にHPV-DNA検査を入れることは日本のがん検診のあり方に大きな前進をもたらすことになります。
子宮頸がん予防は、一次予防であるワクチン接種、それから二次予防であるがん検診によって確実なものになります。しかし、細胞診による子宮頸がん検診は確実なものではない、というのが今世界における常識となっています。がん検診は当然がんを見つけるものでありますけど、子宮頸がん検診は「前がん病変」を見つけることを目的として行われております。簡単に言うと、子宮頸がん検診を受けて異常だった方が10人とすると、その内の9人は実はがんではなくて「前がん病変」です。その「前がん病変」が進行するかどうかを観察し、がんに最も近い「高度異形成」、あるいはがんの最も初期の「上皮内がん」に関して円錐切除術をするという治療が行われております。ところが、細胞診の「前がん病変」を検出する感度は海外のデータでは50%から80%ぐらいといわれ、悪くすると半分、あるいは20%~30%の見落としがあるというのが細胞診の弱点です。
今年の3月にアメリカから出た新しい検診のリコメンデーションでは、従来では細胞診で3年、あるいは2年だった検診間隔を、HPV-DNA検査と細胞診を併用することによって5年間隔にすることができると推奨しています。一方日本産婦人科医会では昨年の11月に、併用検診で3年間隔で良いというリコメンデーションを出しています。これは、併用検診を受けてどちらも陰性だったという人は次の検診は3年後、あるいは5年後で良いということです。それだけ見落としがない(見落としが出る確率は1000分の1)。つまり、より確実な検診方法によって検診間隔をあけることができ、毎年検診を受診する場合に比べて明らかに受診者数を減らすことが可能になるわけです。検診受診率を高めると同時に検診の質をあげる、そして、特に子宮頸がんが増加している30歳代の人々に対してきちんとした検診を使ってがんの発生や死亡を防ぐというのが、今回の厚生労働省の狙いと聞いています。
②HPV検査は、HPV感染の有無を調べる
<参考資料>「参考資料 HPV-DNA検査」 「子宮頸がん検診はHPV検査併用の時代へ~根拠と具体的な運用の方法」
子宮頸がんのほぼ100%がHPVが原因です。そうであれば細胞診という方法で顕微鏡で見て細胞診断するのではなくて、HPV自体を見つけよう、感染の有無を調べようというのがHPV検査です。
一生の間では80%の人がHPVに感染していますが、感染しても90%は免疫力で自然に治ります。これは一過性感染といいますけど、この状態では全く自覚症状がありませんし、細胞の変化もなく、ほとんどが治ります。HPV-DNA検査は、病気ではない、ただ感染した状態の人たちも見つけることができる、非常に感度が良いというのが特徴です。
③併用検診は30歳以上が対象
HPV感染は、普通の女性たちに普通にみられます。男性たちにも普通に感染します。これが今の子宮頸がん領域の常識となっております。15歳から20歳くらいの方では50%がHPVに感染します。つまり、20歳くらいの女の子は二人に一人がHPVに感染しているのが当たり前ということです。でも、ほとんどの人は自分の免疫で知らないうちに治ってしまいます。その後、25歳あるいは30歳以降になりますと、HPVを持っている人の割合は10%です。大人になるとHPVを持っている人は少なくなりますが、この中で一部の人に前がん状態やがんが発生するのです。
日本産婦人科医会の「子宮頸がん検診リコメンデーション」では、30歳未満では一過性感染が多いため細胞診単独の検診が推奨され、併用検診の開始年齢は30歳以上としています。
④併用検診の結果と運用
細胞診(-)・HPV-DNA検査(-)と両方陰性であれば、この方たちの検診は3年後で良く、これが受診者の中で95%を占めています。ということは、検診を受けた多くの女性たちが、「私はこれから先にがんにならなくて済むんだ」という安心を得られるのです。精度の高い検診によって、安心ですよという情報をきちんと与えることができる、見逃しを減らすことができる、財源の負担も減らすことができるということです。
⑤検査手順
子宮頸がんは子宮頸部にできます。その部分は柔らかい唇みたいなものだと思ってください。そこに、ブラシを入れて細胞をとり、スライドグラスの上に載せて色を付けて観察するというのが従来の細胞診です。細胞をとった残りを試験管の中にいれて、これを検査に提出し、そこでHPVのDNAを調べます。すると、「細胞診は異常なし」とか、「HPV-DNA検査は陽性」という検査結果が来て、それをつきあわせて受診者に結果をお伝えします。もうひとつ検査が増えるわけではないので、手間が発生しないというのが一つの魅力です。
当会議では検診の説明DVD「細胞診とHPV-DNA検査併用の実際」(啓発資材ページをご覧ください)を作って、自治体や関連各所にお配りしていますので、参考にしてください。
ワクチンに関しましては、5つの団体として是非皆様にご理解いただき、また報道を通じて一般の方々に通知をお願いしたい非常に大事なメッセージがあります。
「子宮頸がん予防ワクチン本年度公費助成対象者への9月末までの第一回接種周知のお願い」
接種対象は多くの自治体では中学1年から高校1年となっておりますが、本年度の公費助成対象未接種者は、本年9月までに第1回目の接種を受けないと年度内に3回接種が公費助成の下で終了できません。このワクチンは6か月間の間に3回打つワクチンなので、9月いっぱいまでに1回目を打ちますと、3月内に3回目を打ち終わることになります。ところが、10月になってから1回目を打ちますと、3回目が4月に入ってしまうということになります。ワクチンは、接種間隔を短くしてしまうと有効な効果が得られない可能性があります。多くの自治体では9月までに打ち始まった方にはきっちり3回目を補助して下さると思います。たとえば、一昨年このワクチンの品不足が起こった時には、国はそれに対するレスキューとして3月を超えた者に対しても公費助成をしていただくということがありました。しかし、現在の政治状況でみますと、4学年で接種している公費助成対象が、来年度になると変更になる可能性がある。一般の親御さんたちは、高1までに打てばいいんだとなんとなく信じているところがありますが、実際には2年間限定の基金でありますから、来年の保証というのは誰もしていないことであります。来年になると中学1年生だけ、となるということも予算の関係で想定されないわけではありません。3回のワクチンで4万5千円から5万円の高価なワクチンです。子どもたちの未来を守るためにこの機会を逃さないでいただきたい。特に、保護者の方がワクチンを打つ・打たないご判断をなさる訳ですから、その保護者の方ご本人・教育関係者・保険指導関係者・地方行政へ、どうかこの情報を発信していただきますようお願いいたします。
私たちは昨年度もこのようなお願いをいたしました。そして、駆け込みのような接種率の増加も実際にありました。このお願いの所に教育関係者という書き方をしてありますけど、文科省の方では学校から子どもたちにワクチンを受けなさいというような指導は全くありませんので、厚労省側、保健行政側からのアプローチをしていただくことが現実的には最も有効な対策になろうかと思います。
ワクチンの接種率は、去年の段階では70%という素晴らしい結果をあげています。イギリスやオーストラリアなど学校接種では80%以上の接種率になっているところはありますが、日本のように個別接種を基本にしていて70%の接種率というところはないのではないかというくらいとても高い接種率となっています。しかし、実は今年度に入ってからのワクチン接種率は低迷しております。マスメディアで取り上げていただくと、国民の皆様は行動に繋げていただけますけど、露出頻度が落ちてしまいますと忘れてしまって動かないことがあります。HPV-DNA検査とHPVワクチン、一般の方にとっては似たような印象もあるかと思いますので、2つの話題を混乱の無いように、別々にそれぞれ重要な情報として取り上げていただきたいと思います。
<配布資料>
・子宮頸がん検診のあり方ーHPV併用検診の研究段階から実施への移行
・参考資料 HPV-DNA検査
・子宮頸がん検診はHPV検査併用の時代へ~根拠と具体的な運用の方法
・子宮頸がん検診リコメンデーション
・べセスダシステム2001準拠子宮頸部細胞診報告様式の理解のために
・DVD「細胞診とHPV-DNA検査併用の実際」 →啓発資材ページをご覧ください
・子宮頸がん予防ワクチン本年度公費助成対象者への9月末までの第一回接種周知のお願い