活動報告

子宮頸がん予防のためのプロフェッショナルワークショップ―Professional workshop for cervical cancer prevention―
日時:2012年10月19日(金) 11:00~16:30 
場所:イイノホール&カンファレンスセンター 

ワークショップ最近の子宮頸がん予防の領域には、「HPVワクチンの公費助成」と「がん検診における新しい方法の導入」など、めざましい進歩と変化が見られ、従来の知識や考え方とは大きく異なる点も出てきた。子宮頸がんほど、検診(二次予防)とワクチン(一次予防)の重要性・有効性が確立されているがんは他にない。一方で、検診やワクチンは公的に行われる部分が多く、医療だけではなく行政・財政の関連や個人と集団の便益と弊害を考慮して、政策に反映する必要がある。産婦人科医や検診に従事する医師のみではなく、小児科医や内科医、家庭医、国や自治体保健担当者、議員、対がん協会活動や人間ドックの従事者、細胞検査士、保健師、看護師、助産師や一般市民、あるいは、メディ アの方々などが正しい知識を持つことが公衆衛生の視点から重要である。そこで、子宮頸がんの予防と治療、さらには、今後の日本のワクチンの展望などについて、国内外の専門家による講演とワークショップを開催。厚生労働省、自治体保健担当者、議員、メディアなど約60名が参加し、熱心に聞き入っていた。

ワクチンに関する自治体調査結果や、3月末までに3回の接種を終えるため早めに1回目を接種してほしいという内容が、翌日のNHKニュースで放送された。また、新聞各紙でも取り上げられた。

*講演資料をご覧になりたい方は、事務局までご連絡ください。

 

講演

①「HPVとがんの疫学」
F. ザビエル・ボッシュ(Professor, Cancer Epidemiology Research Program IDIBELL, Institut Català d’Oncologia, L’Hospitalet del Llobregat, Barcelona, Spain);

ボッシュ先生女性がかかるがんの中で、子宮頸がんは先進国では7番目、途上国では乳がんに次いで2番目に多いがん。50歳以下では、先進国でも途上国でも2番目となっている。

ハウゼン博士がHPVが子宮頸がんの原因と解明。HPVのタイプの中で16型と18型がリスクが高い。HPVはさらに、膣、肛門、口腔、咽頭がんなどの原因であることもわかっている。

子宮頸がんに関与するHPVで多く見られるのが、16型、18型、45型、33型、31型、52型、58型、35型。16型と18型が子宮頸がんの原因の71%を占め、それにプラスして45型・33型・31型まで含めると84%を占め、さらに52型、58型、35型までの8種類で91%を占める。HPV感染はがんにつながるが、16型と18型はワクチンで予防できる。その他の高リスク型HPVを防ぐ新たなワクチンも開発されている。

 

②「HPVワクチンアンケート調査報告」
今野良(自治医科大学附属さいたま医療センター教授/子宮頸がん征圧をめざす専門家会議実行委員長) 

今野先生2012年 6月~8月、全国1,738自治体に検診とワクチンについての5回目のアンケートを実施。 有効回収数1354、有効回収率77.9%。回答がなかった自治体に電話でフォローしたため高い回収率となった。

ワクチンを全額公費助成しているのは86.0%。11.6%の自治体で個人負担があり、金額は、「1000~2000円未満」63.7%、「4000~5000円未満」7.6%、「5000~6000円未満」11.5%。9割以上の自治体が中学1~3年生に助成を行う。

H22-23年度は、どの学年も6割以上は接種し、中1~高2の平均は67.2%。未接種者に対し個別の働きかけを実施している自治体は56.0%で、勧奨手段は郵送(ハガキや封書)による働きかけが多い(79.2%)。高校2年生の初回の未接種者に対し周知を実施した自治体は79.2%でハガキが多かった(75.8%)。

全額公費助成の方が高い接種率になっていた。助成学年については、中学1年から高校1年だが、接種率80%以上の自治体では中学1年(新規の学年)に集約化していく傾向が見られる。接種率が高い自治体では未接種者に対し個別の働きかけを実施している割合が高い。勧奨手段では、電話も効果的と思われる。

「子宮頸がん予防ワクチン公費助成接種状況」についてのアンケート調査報告

 

③「子宮頸がん検診―細胞診(従来法・LBC)、ベセスダシステム、HPV検査」
鈴木光明(自治医科大学産科婦人科講座主任教授/子宮頸がん征圧をめざす専門家会議実行委員)

鈴木先生検診の報告様式は従来クラス分類が使われていたが、国際分類との互換性が必要であることと、不適正標本をなくすため、4年前にべセスダシステムを導入。現在の報告では両方が併記されているが、2013年4月よりべセスダシステムへの一本化を図り、厚生労働省や自治体に要請している。

従来の細胞診は採取した細胞をスライドグラスに塗布して観察するもので、形態学的診断のため見逃しの危険性がある。また、標本が少ない・塗布にムラがあることもあるので、正しく診断できない場合がある。細胞を溶液に入れて均一な状態にしてからスライドグラスで観察するのが液状化細胞診(LBC)で、これにより標本が見やすくなり不適正標本が減少、検鏡時間も短縮される。

HPV検査は、高リスク型HPVの感染有無を調べるDNA診断。細胞診とHPV検査との併用により、前がん病変をほぼ確実に見つけることができる。両方とも陰性なら最低3年間はがんにならないので、将来の安心が得られる。厚生労働省が現在、HPV検査導入の検討を行っている。

 

④「子宮頸がん検診アンケート調査報告」
鈴木光明(自治医科大学産科婦人科講座主任教授/子宮頸がん征圧をめざす専門家会議実行委員)

2012年 6月~8月に実施した自治体アンケートでは、子宮頸がん検診の間隔は、毎年検診と隔年検診がほぼ同数。案内(受診券等)を直接送付している自治体が66% 。未受診者への受診勧奨を実施している自治体が43% 。

H23年度の検診無料クーポン券の利用率は、23.7%。未受診者への受診勧奨が有効。

検診受診率(2年に1回受診)は平均25.6%。高受診率達成のためには、「毎年検診」「安い検診費用 (500円以下)」「受診券の本人への直接送付」が鍵となる。

HPV併用検診を実施している自治体は3.6%(49自治体)にすぎず、厚生労働省の指針に入っていないことが導入が進まない要因となっている。

「子宮頸がん検診受診状況」についてのアンケート報告

 

⑤「島根県におけるHPV併用検診の成果」
岩成治(島根県立中央病院母性小児診療部長/子宮頸がん征圧をめざす専門家会議委員)

岩成先生2007年・2008年、HPV併用検診を島根県モデル事業として出雲市で導入。厚労省のガイドラインでは推奨していないこと、前例主義という行政気質などの逆風もあったが、低受診率・低発見率・増若年がんという検診現状の危機感を訴え、県を動かすことができた。2009年~2011年は自治体が自立して実施、島根県内21市町村のうち20市町村に波及している。

検診費用を試算してみると、細胞診のみを3年間実施した場合に比べて、HPV併用検診を3年間実施すると費用を30%削減できる。財政難な自治体ほどHPV併用検診への移行が有利。HPV併用検診導入後、病変発見数が増え、若年の受診率も増えた。

HPV検査を勧奨する際、助産師・看護師が「自費診療で3600円かかりますが、受診間隔が3年に1回でよくなりますので『割安』。子宮がん検診・細胞診の『残り材料』でできます。『みなさん』受けていらっしゃいますが、受けられませんか? 」と言うと、95%が受診を希望する。『割安』『残り材料』『みなさん』の3つがキーワード。

 

⑥「日本の予防接種の現状と展望」
岡田賢司(国立病院機構福岡病院統括診療部長/子宮頸がん征圧をめざす専門家会議委員)

岡田先生1990年代以降、副反応の影響で新しい海外のワクチンが導入されない時期があったが、ワクチンギャップはこのところ解消に向かっている。公費助成があると接種率がアップし、確実に罹患率の減少が見られる。小児の接種ワクチンが増えたため、1ヶ月検診で、生後2ヶ月目からのワクチンデビューを母親に説明している。

WHO推奨ワクチンの中で、日本では定期接種と任意接種のものがある。予防接種制度の見直し提言を行い、7つのワクチンについては定期接種化を促進しているところだが、継続的な接種に要する財源の確保が必要であり、国策としての議論はこれからである。

 

⑦「治療に勝るワクチンによる疾病予防」
野々山恵章(防衛医科大学校小児科学講座教授/子宮頸がん征圧をめざす専門家会議実行委員)

野々山先生自然感染の方が予防接種より強い免疫が出来ると信じている人がいるが、これは間違いである。予防接種の方が強い免疫を誘導できる場合もある(結合型肺炎球菌ワクチン、ヒトパピローマウイルスワクチンなど)。自然感染は、重症化、遷延化、持続感染を起こすだけでなく、発症者は他人への感染源になる。 自分にも良くなく、他人にも悪さをする。自然感染は決して起こしてはならない。

特に小児は免疫が未発達であり、感染防御能が低い。予防接種により、小児に十分な感染防御能を付けることができ、子ども達を守ることができる。 

 

⑧「子宮頸がん予防の医療経済」
今野良(自治医科大学附属さいたま医療センター教授/子宮頸がん征圧をめざす専門家会議実行委員長)

医療財源の逼迫の中で、公的財源、保険者財源の有効活用が求められ、モデリングによる医療の効率性評価が必要とされている。医療経済評価には、費用(医療費や労働損失)の考え方は同じだが結果の測定方法が異なる4種類の方法が使われている。費用が最も少なくなる方法を探る「費用最小化分析」、生存年数の延長や物理的な尺度(血糖値等)を効果として用いる「費用効果分析」、生存年数とQOLの両方を考慮する「費用効用分析」、投資額に対してどれだけメリットがあるかを計る「費用便益分析」。こうした分析から、効果を最大に、弊害を最小にするような予防ガイドラインを導いている。

総合討論 「がん検診受診率、ワクチン接種率を上げるために」 

司会 野々山恵章・今野 良 

特別発言:ワクチン接種、HPV併用検診成功事例の紹介 
 寺本勝寛(山梨県立中央病院周産期センター統括部長/子宮頸がん征圧をめざす専門家会議委員)

寺本勝寛山梨県産婦人科医会の2009年度の年間事業に、子宮頸がん予防のための市民公開講座を計画。山梨県、教育委員会、医師会など関係団体に協力を要請、マスコミにも協力してもらい、約300人の主婦や若い女性、県議会議員や甲府市長にもご参加戴いた。講演後のアンケートでは、費用が高いこともあり自分へのワクチン接種を希望する人は4割程度だったが、子どもには受けさせたいという回答がほとんどだった。

そこで、がん対策、少子化対策の観点からワクチンの公費負担を山梨県に要請。都道府県としては、山梨県が日本で初めて公費助成を表明した。産婦人科のほか、耳鼻科など、どこでも接種できるようにして、接種に来た母親には検診の大切さを説明するよう施設にお願いした。

2010年度は「20年後の子宮頸がん死亡0を目指して」検診とワクチンの両方を推奨。2011年度はHPV併用検診導入に取り組み、2012年5月から甲府市、市川三郷町で導入を開始している。140周年を迎える山梨日日新聞と一緒に啓発キャンペーンもスタートさせた。

 

特別発言:ワクチン接種、HPV併用検診成功事例の紹介
清水裕子 (埼玉県志木市健康福祉部健康づくり支援課主査 保健師) 

清水先生志木市は、H22年4月全国に先駆けてHPVワクチン接種を開始。まず職員で勉強会を開き、22年度からの開始に向けた検討を行う。さらに校長会へ事業内容の説明、市管理職員、市職員、学校管理職員、養護教諭等へ研修会を実施。こうした働きかけにより、事業がスムーズに進んだ。 対象者へは、全員へ個別通知を行い、同時に成人後の検診についても啓発した。広報、ホームページ等で事業のお知らせを周知するほか、市民向けに公開講座を実施したことがワクチンの意識向上に寄与した。

検診については、成人式などでPRしている。また、緊急雇用創出基金を利用して受診勧奨事業を展開。クーポン対象の約3600人に電話勧奨を実施したところ、留守録や家族へ伝言するケースが多く、「行く」と回答が得られたのは1割程度だったが、「行かない」という理由を聞くことができ、わずかだが「クーポンをなくしたので再発行を」という人も拾うことができた。さらに、全戸訪問(3万1千世帯)を行いチラシを配布、同時にアンケートを実施し、受診・未受診理由をヒヤリング。そこから未受診者を3分類し、時間がない・申込方法が不明等で受診に至っていないが「必要性を感じている」タイプ、健康に自信がある・検診が必要な年齢ではないなどと「健康を過信している」タイプ、結果が怖いなど「検診が不安」なタイプに分けて、それぞれの理由に合わせて一歩踏みこんだ勧奨を徹底している。

埼玉県はがん検診受診率が低い。H24年度は各市町村が “ゆるキャラ”を健康大使として登場させてPRを展開したところ、若い女性や高校生の反応が良くなった。志木市はカッパのキャラクターを用いている。

 

特別発言:養護教諭から望むこと 
堀田美枝子 (全国養護教諭連絡協議会会長/子宮頸がん征圧をめざす専門家会議委員)

堀田先生啓発推進のため、まず養護教諭が正しい知識を得ることが大切。1200人の研修会で今野先生に講演をお願いしたり、2万9千人の会員にゼロプロが作成した「指導者パンフレット」を配布している。

市と教育委員会と学校の連携が十分ではないのが現状だが、職員会で知らせる、ポスターの掲示、女子生徒がワクチン接種のために部活を休むことへの理解を運動部の男性顧問に求める、小中学校の保健の授業で指導するなど、学校管理職の理解を得ながら実施している。「9月末までに第1回接種を」という告知も、会員にメールで配信し、各学校で呼びかけてもらっている。

 

総 括

野田起一郎(近畿大学前学長/子宮頸がん征圧をめざす専門家会議議長) 

野田先生検診は、受ける人は毎年受けるが、受けない人はまったく受けない。受けない人たちをどうやって受診に導くかが課題。自治体担当者の熱意が検診受診率を大きく左右する。HPV検査の普及のため、島根や山梨など先進地域の成功例をマスコミに広めてもらいたい。

ワクチンは各地の自治体が公費負担で接種を始め、厚生労働省を動かした。このやり方が効果的。予防は、個人や市区町村ができることは微々たるもので、国の施策に取り入れることが大事。ワクチンの公費負担を毎年獲得するよう国に働きかけたい。

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