講演・インタビュー

日本婦人科腫瘍学会 第50回記念特別講演 要旨

日本婦人科腫瘍学会の歴史を振り返る

野田 起一郎 近畿大学前学長/子宮頸がん征圧をめざす専門家会議議長
日時:2011年7月22日
会場:札幌コンベンションセンター

現在の日本婦人科腫瘍学会は、2001年に既存の4学会、日本婦人科腫瘍学会、子宮癌研究会、日本産婦人科悪性腫瘍化学療法学会、日本産婦人科腫瘍マーカー遺伝子診断学会が合併して成立しました。

合併時以前の各会の沿革をたどりますと、日本婦人科腫瘍学会は遡ること1975年、栗原操寿先生、天神美夫先生、そして私とで創立したコルポスコピー研究会に端を発しています。以後、1983年に日本子宮頸部病理・コルポスコピー学会、1986年に日本婦人科病理・コルポスコピー学会と変遷し、1998年には卵巣病理研究会との合併を経た歴史があります。

子宮癌研究会は、長崎大、癌研、熊本大、岡山大、国立大阪病院が、国際産婦人科連合(FIGO)のアニュアルレポートに登録を試みる際に、登録の仕方を検討するため、日本産科婦人科学会子宮癌委員会のなかに発足した研究会です。1972年の第11回研究会にて、栗原先生と私が話題を提供し、朝から晩までフロアーを巻込んで議論したことが思い起こされますが、このようにフロアーと一体となって議論するというのが、子宮癌研究会の特徴でした。また、腫瘍についての学問の進歩は、日本産科婦人科学会の腫瘍委員会が主導してきたと言えます。腫瘍関連の委員会としては1952年に子宮癌委員会が、その後、絨毛上皮腫委員会、卵巣腫瘍委員会、癌検診問題委員会が設立されています。

日本産婦人科悪性腫瘍化学療法学会は、1981年発足の子宮頸癌化学療法研究会を祖とし、婦人科のがん療法に慣れる、知るという啓蒙的な意味で設立されました。しかし1987年に、臨床試験に特化する婦人科がん化学療法共同研究会と日本悪性腫瘍化学療法研究会に分かれています。日本悪性腫瘍化学療法研究会は2001年に日本婦人科腫瘍学会となり、婦人科がん化学療法共同研究会は、現実的なクオリティの高いスタディを目指して、JGOG(婦人科悪性腫瘍化学療法研究機構)へと根本的な衣替えを行い、その研究成果は国際的な評価を受けています。

日本産婦人科腫瘍マーカー遺伝子診断学会は、1985年設立の産婦人科腫瘍マーカー研究会を礎に、1997年の産婦人科腫瘍マーカー遺伝子診断学会を経て合併の時を迎えました。

この4学会の合併により、新しく誕生した日本婦人科腫瘍学会は、2004年に専門医制度を導入し、同年NPO法人の認証を受け、現在、会員数は2800名を数え、今回の第50回学術講演会の開催に至っております。関連学会としては、1941年設立の日本癌学会をはじめ、日本対がん協会、日本癌治療学会、日本臨床細胞学会、日本産婦人科手術学会、日本婦人科検診学会があります。

日本婦人科腫瘍学会の歩みと平行し、私は、東北大学病理学教室、福島医大、東北大、近畿大の産婦人科と籍を移しながら、診断、臨床、予防、行政への働きかけという4つの側面から婦人科腫瘍、子宮頸がん征圧へのアプローチを行ってきました。

診断に関しては、形態発生のフォローアップスタディと臨床診断の細胞診・コルポ診を挙げさせていただこうと思います。フォローアップスタディについては、鏡下に観察した組織そのものはフォローアップし得ない、フォローアップ開始時の悪性病変の共存は否定し得ない、自然消退を認めても悪性ではないという根拠にはならないという4つの問題点があり、この欠点を補うためにできるだけ多数の上皮異型病変を慎重に1~3ヶ月ごとにフォローアップして前がん病変の同定を行い、頸がんの自然史を明らかにすることができました。そして細胞診とコルポ診の診断学的意義を確立しました。また細胞診と言えば、大田邦夫先生による功績を忘れてはなりません。コルポスコピーは1925年、Hinselmannによって開発され、日本でもコルポスコピー研究会等の創設を経て、新コルポスコピースタンダートアトラスが発表されるなど発展を遂げています。

臨床については、機能温存を踏まえた手術療法と化学療法の確立を目指したJGOGの設立、予防に関しては1961年開始の集団検診と、2009年に始まったHPVワクチン。行政への働きかけとしては、1978年の厚生省がん対策打合会、1981年の公衆衛生審議会、そして2008年の子宮頸がん征圧をめざす専門家会議の発足が挙げられます。

子宮頸がんの征圧、つまり、頸がんによる死亡をなくすためには、多方面からのアプローチが必要ですが、その発生を予防することが最善の策であることは言うまでもありません。従来から行われている細胞診による検診は、前がん病変を発見してがんに移行するのを予防する方策です。がんを早期発見して頸がん死を予防することを2次予防、がんの発生そのものを予防することを1次予防と言いますが、前がん病変を発見して頸がんの発生を予防することは1.5次予防と言うことができるでしょう。こうしてみると1次予防が理想的であることは明らかです。過去にはこのための良い方法がありませんでしたが、2009年から日本でも使えるようになったHPVワクチンによってこの1次予防が可能になりました。

このHPVワクチンは高額であることから、公的助成の対象となって普及していくことを願っておりました。予防ワクチン接種緊急促進事業では、子宮頸がん予防ワクチンという通称のもと、啓発教育としての事務費の予算まで得ることに成功。公費負担の割合は、国と市町村がそれぞれ1/2ずつ、公費カバー率は9割にのぼります。ただ、助成対象事業には民間保険の加入、健康被害副反応報告が行われるための措置を講じることが要件として盛り込まれており、中学校1年生から高校1年生の女子を対象に3回の接種とされています。

子宮頸がん征圧対策の今後としては、頸がん検診の効率化、受診率の向上とHPVテストの併用を検討する必要があるでしょう。さらに9価ワクチンや治療ワクチンの開発も不可欠でしょう。しかし、当面は公費助成による定期接種の継続が必要ですし、そのためには子宮頸がん予防法の制定を行わねばなりません。予防方針を策定し、正しい知識の普及を推し進める。そして12歳への予防ワクチンの接種と、補助のもとに全女性を対象に5歳ごとの子宮頸がん予防検診を推進する。これには550億円ほどの経費が必要ですが、実施していかねばならないことだと考えています。